筆者がマーキングした渡り蝶アサギマダラが、
10月31日に、台湾北部の金山獅頭山で撮影により確認されました。
78日間で、南西の方向に約2231km移動した
ことになると思われます。
日本から台湾への南下例としては第8例目になります。
その詳細を、筆者がアサギマダラのMLに報告した内容から引用します。
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■ [asagi:015607] 【移動情報】(確定版)
福島県グランデコスキー場 8/14→ 台湾北部 金山獅頭山 10/31
(SRS 2355 デコ 8/14 →撮影10/31) ♂。
78日間で約2231kmの南西方向への移動。最北地からの国外移動例。
陳建志さん、福田晴夫さん、金沢至さん、
アサギマダラのMLの皆さん、東京の栗田昌裕です。
台湾での再確認をお知らせくださり、ありがとうございました。
福島県グランデコスキー場から台湾北部への移動個体と
分かりましたので移動情報を示します。
■移動情報
福島県グランデコ 8/14 → 台湾北部金山獅頭山 10/31
(南西方向に約2231km移動。移動期間78日)
標識:SRS 2355 デコ 8/14
性別:♂
標識日:2009年8月14日9:46
標識地:福島県耶麻郡北塩原村桧原荒砂沢山
グランデコスキー場
標識者:栗田昌裕
備考:ヨツバヒヨドリに訪花。画像あり。
鮮度は中の上。破損はなし。辺縁白毛は6割程度残存。
[この個体は、11:22に同日自己再捕獲をしたので、
左後翅に「・」を追記し、再度放蝶した]。
↓
再捕獲日時:2009年10月31日
再捕獲場所:台湾北部 台湾北部金山獅頭山
再捕獲者 :呉靖惠
備考:撮影画像あり。
シロノセンダングサ(Bidens pilosa)にて吸蜜中。
右前翅に破損あり。左後翅にも小破損あり。
<追記>
1)本例は、2008年8月~9月にグランデコスキー場で9241頭
標識した中の1例です(1年間の標識としては13251頭)。
今年のグランデコはアサギマダラが少なかったため、例年より少なめ
の標識頭数でした。2003年から見ると10万頭余の私個人の
標識例の中で初めて台湾に移動した記念すべき1例となりました。
2)陳先生より送っていただいた画像では、8月14日とも8月24日
とも読めるように思われましたので、私の手持ちの放蝶時の
全画像群と、書かれた文字の特徴およびアサギマダラ
の模様とを比較しました(このような事態を想定して全画像を撮影
しているのですが、実際に役立ってうれしく思いました)。
いただいた画像は、左右を反転して、回転した上で、
affine変換(フレームを平行四辺形に変換すること)
をすると、ほぼもとの左後翅での画像と同等に読めます。
[ただし、もともとは、翅裏に書いていますが、いただいた
画像は翅表から写されたものなので、文字は透過像として
撮影されており、翅の模様の見え方も若干異なっている
可能性があり得ます。しかし、空間配置は異なる理由が
ありませんので、そこを基本として比較作業を進めることが
できました。特に、数字の8の形と位置はほとんどの例で
少しずつ違うので、区別する上での簡単かつ重要な指標と
なりました。「デコ」の形や位置も同様の役割を果たしました。
比較対象は、
8月14日はSRS2338~2776の439頭と、
8月24日はSRS6218~6517の300頭です。
以上の合計739頭の全画像の中で、上記のSRS2355
で間違いないと確信しました。
変換した画像と、いただいた元画像と、デコで撮影した
SRS2355の画像の3点は、以下に示しておきます。
http://www.srs21.com/3d_insect/watarichou/special/090814taiwanSRS2355.htm
3)本例は、「日本→台湾」の移動例としては8例目と思われます。
●2006年には「HTN355 9/24 のっぺ」(西川尚実氏標識)が、
長野県大町市ののっぺ山荘から台湾の蘭嶼島(らんしょとう)へ移動しました。
複数の新聞によると2190kmの移動でした(これが従来の最北例です)。
この例が4例目でした。
●(2006年には「石ひよし078N」の
「石川県輪島市→中国本土の浙江省平湖市」という移動例もありました。
その例の移動距離は1644kmと報告されています)。
●2007年には上五島から台湾の蘭嶼島(らんしょとう)への移動例が出ました。
野下広人さんの標識による「ノシタ11/01 上五島」という個体です。
これが5例目です。
●2008年に再度、上五島から台湾の蘭嶼島(らんしょとう)への移動例が出ました。 野下広人さんの標識による「MG 1085 10/21 上五島」という個体です。
これが6例目です。
●同じ2008年秋に7例目が出ました。私の娘(麻未)の例です。
「MM150 ハズ 10/12」が「愛知県幡豆町三ヶ根山→台湾西部の桃園県」と
移動しました(1880kmの移動)。
●なお、「台湾→日本」と北上移動した個体は4例あります。
4)本例は、「日本→台湾」という南下移動に限ると、
最北からの例になります。
5)●移動距離に関しては、大島新一郎さんの記事が、
アサギマダラ・マーカーの広場-フォーラムにあります:
http://www.asagi-org.jp/xoops2/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=103&forum=1&post_id=176#forumpost176
そこでは、上記の「長野県大町市→台湾蘭嶼島(らんしょとう)例が、
2311kmで第一位とされています。ただし、信濃毎日新聞や
河北新報ではこの例は2190kmと報告されています。
このgapは下で再検討します。
●蔵王から、与那国までの移動例は、
2245(または2246)kmとされています(2006年の藤井大樹さんの例:
「ZAO TF1172 8/26」。2246kmは新聞記事上での値)。
●今回の例では、まずグーグルマップ上で、
金山獅頭山をA地点とし、経度緯度 121.6484 25.2266
デコ平の採集地をB地点として、経度緯度 B 140.0735 37.4308
を求め、「地球上の2地点間の距離を高精度計算」するサイト
http://keisan.casio.jp/has10/SpecExec.cgi
を用いて(地球の赤道半径r=6378.137kmを使用)
2231kmとの計算結果を得ました。
(参考:陳さんのお手紙では2260kmと見積もられていました)。
●[同上の方法で、大町市から蘭嶼島(らんしょとう)の距離を見ると、
のっぺ山荘=A地点137.84639、36.59466(これは正確です)。
蘭嶼島=B地点121.54346、22.05207(現場を知らないので正確ではありません)
と島の「中央あたり」をB地点として計算すると、2257となりました。
この値は新聞記事の2190と、2311の中間になります]。
●グランデコからの南下移動の過去の最長距離例は、2006年の
与那国までの移動で2191kmです(「カズキ 205 デコ 827」、檜垣和希君)。
●以上から、移動距離に関するおよその順位は、以下のようになるの
ではないかと思われました:
1)「大町市→台湾蘭嶼島(らんしょとう)」例 2260km前後?
2)「蔵王→与那国島」例 2246km
3)「福島県グランデコ→台湾北部金山獅頭山」例 2231km
4)「福島県グランデコ→与那国」例 2191km
地図で見ると分かるように、東北から与那国島への距離と、
東北から台湾北岸までの距離はあまり変わらないのです。
●大島さんも記載されているように、実際の移動経路は複雑なので、
直線距離の大小はあまり問題ではないのですが、移動の程度の目安
としては役立つ指標の一つですので、再検討をしてみた次第です。
参考にしていただければ幸いです。
6)私見では、今年は、与那国の植物の状況が大変悲惨でしたので、
与那国方面に南下移動しようとしたアサギマダラの多くは、与那国を
パスして(または、いったん寄ってもすぐ旅立って)、台湾方面に
渡ったのではないかと思っています。
過去の「日本→台湾」という移動では、台湾南部が注目される
傾向がありましたが、2008年の例では西部に移動し、2009年の
本例は北端への移動が確認されましたので、実際には、
日本から移動した個体は、台湾全体に広がっているのではないか
と思われました。
7)本例が見出された経緯を記録に残すために、金沢さんからいただいた
メールに記載された陳建志さんの文章を引用しておきます:
「I holds the 2009 campus habitat management workshop(Dec/11-13)
Miss Wu is a volunteer of Forest Bureau
Participate in the workshop and show me the picture at Dec 11」。
8)グランデコ発のアサギマダラの移動状況は
筆者のHPの「2009年の移動調査記録」
の頁に表示してあります:
2009年のアサギマダラ移動調査報告
以上 栗田昌裕 m-kurita@suite.plala.or.jp
(グランデコ・アサギマダラ観察会・オフィシャルアドバイザー)
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■タテハチョウ科マダラチョウ亜科(以前はマダラチョウ科とすることもあった)アサギマダラ属アサギマダラ。学名Parantica sita 。英名Chestnut Tiger。
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■本ブログの総合的な画像目次や、ブログ内容を地域毎・テーマ毎にまとめた画像目次を下記のHPから見ることができます。
●SRS研究所の公式HP[SRS速読法・SRS能力開発法指導]
<参考HP>
●2009年のアサギマダラ移動調査報告(SRS)
●グランデコ・デコ平・裏磐梯でのアサギマダラ・自然旅行体験(SRS研究所)
●姫島のアサギマダラを守る会の紹介
●奄美大島の自然旅行体験(SRS研究所)
●喜界島の自然旅行体験(SRS研究所)
●3Dアサギマダラの世界(SRS)
●SRSアサギマダラ生態図鑑
■ランキングのために次の2つをそれぞれ一押ししていただければ幸いです:
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