アサギマダラのマーキングの15日目でした。
この日はSRS8221からSRS8809までの
589頭にマーキングをしました。
この値は天候のよかった前々日とほぼ同数です(前々日は591例)。
写真上はその最初に標識したSRS8800の画像です。

[080820] 福島県耶麻郡北塩原村桧原荒砂沢山 グランデコスキー場。デコ平。
■4日間連続して雨→1日よい天気の日→雨の日、
と続き、本日を迎えました。
この地域の天気予報は、午前30%→午後20%→夜40%
という降雨確率でしたが、幸い、日中は雨が降らず、
多くのアサギマダラに出会うことができました。
ただし、朝方は西風が強く、
ゲレンデで見るアサギマダラは少なめで、
午後に、増えて来ました。
ゴンドラ駅の気温は、朝9時で16度Cで大変低いものでしたが、
手持ちの温度計は21.5度Cで、体感は後者に近いものでした。
■本日のアサギマダラの特徴は、昼間全体を通して鋭敏かつ敏捷で、
近づくとすぐ逃げ、飛ぶ速さも速いものでした。
■アサギマダラは外界の状態にシンクロして行動様式を決めています。
筆者はこれをレゾネーション(共鳴)という用語で説明しています。
アサギマダラは環境に共鳴しながら、
適応して生き延びていく智性を持った生き物です。
これを「ネゾネる智性」と呼ぶことにしたいと思います。
アサギマダラを観察することによって、
人間が学ぶことはたくさんあります。
グランデコのゲレンデで、筆者は日々、
「アサギマダラの教え」を学んでいるわけです。
■今日は、単独で逃げるときと、集団で逃げるときの
飛び方の違いを「教えて」もらいました。
単独行動をしていて逃げるときは、気づくのが遅れ、
個体の意志のみで逃げますので、飛び方もワンパタンーで
「振り返って確認する」動作が入るので、
捕獲するチャンスが大きくなります。
ところが集団で過ごしていて逃げるときは、
そのうちの一頭のシグナルで一斉に逃げます。
したがって、まず異常を速かに察知することになります。
そして、振り返ることなく、一気に逃げます。
したがって、捕獲の間を与えるチャンスが減ります。
さらに、集団で逃げるときには、
(これが今日学んだことですが)
飛び方が極めて複雑なパターンになるのです。
それは空間で、お互いの空間位置に反応しながら飛ぶので、
飛跡(飛ぶ道筋)が全く予測不可能なパターンになります。
それによって、捕獲される可能性はさらに減ることになります。
こうして、アサギマダラは集団行動をすることによって、
逃げる確率を増すことができるのです。
■午前中に、福島明成高等学校の江川先生、穂積先生、
高校三年生の生徒さん3名が
アサギマダラ観察会に参加されましたので、
解説と標識指導を行いました。
この生徒さんはアサギマダラの研究をすることになるそうです。
■今日のアサギマダラ観察会には、
昨年グランデコのアサギマダラ観察会に参加され、
小学校4年生のお子さんが、2頭標識して放蝶しただけなのに、
1頭が鹿児島県の喜界島で再捕獲されたご家族が再参加されました。
■20km離れた安達太良山で標識されたHKマークのアサギマダラを
3頭再捕獲していて、放蝶者が不明でしたが、
実は昨年グランデコの観察会に参加された小柴さんが標識者と
分かりました。本日の観察会に参加されたので
お会いして確認できてよかったと思いました。
■この日は標高の低めのところで標識をしました。
■本日標識した589頭のうち雌は40頭で、比率は6.8%。
雌比率としては非常に低いものでした。
雌比率は
15%、15%、23%、16%、24%、
24%、8%、6%、7%、17%、0%と推移しています。
■交尾痕のある雌個体は1頭(SRS8260)で、やや古い個体でした。
この個体には硬結がありました。
これまでにグランデコで交尾痕のあった雌で本当に新鮮な個体は1例のみ
で他はやや古い個体であったことは注目すべきことです。
■ヘアペンシルの出た雄個体は1頭(SRS8436)。
右側のみの例です。今年の夏に見たヘアペンシル例は
すべて片側だけ出ていました。
■翅の変形は8例(SRS8225、8316、8323、8383♀、
8396、8587、8728♀、8735♀)。割合は1.4%。
やや多めです。
■ここ数日、モンシロチョウ程度の小さい個体が
目立つほどに増えています。どこから飛来しているのでしょう。
■「中古の個体」は4例(SRS8260♀交尾済、8315、
7937、7975)。
「古い個体」は0例。
合わせて4例となり、その割合は0.7%です。
■「病気」と思われる個体は1例(SRS8508♂)でした。
腹部の横が削られたようになっています。
人間で言えば、皮膚疾患にあたる病変かもしれません。
■589例のうち、前日8月19日の標識のある個体の再捕獲は1例。
前日は14例しか標識しませんでしたから、この値を用いて
確率的な推定するのは意味がありません。
かわりに、前々日の数字を用いる方が意味があるでしょう。
8月18日の標識のある個体の再捕獲は8例。
その日は591例に標識をしましたから、
591×589/8=43512頭(=約4万頭余)となります。
以下に、より意味のあると思われる推定をしておきましょう。
■標識日を日付順にA、B、C、・・・とすると、各日の分の再捕獲は
A0、B4、C5、D2、E5、F5、
G2、H9、I0、J3、K5、L0、M8、N1
となり、その合計は
0+4+5+2+5+5
+2+9+0+3+5+0+8+1=49例です。
筆者の標識した個体は累積で昨日までに4894例ですから、推定値は
4894×589/49=58828(頭)[=約6万頭]
となります。すなわち、
8月19日(=前日)には約6万頭程度のアサギマダラが
「ゲレンデ周辺(見えないところも含めた仮想領域)」にいたと推定されます。
8月18日の再捕獲による8月17日の推定値も
約4万頭でしたから、
今日の2つの方法による推定値4万頭余~6万頭という値は
個体数がさらに増えたことを示唆していると思われます。
■当日筆者が放蝶した個体の自己再捕獲は4頭でした。
これが少ないことも、全体の個体数が増えたという
予想に矛盾しません。
■筆者以外の人が標識した個体の再捕獲は26例でした。
これは筆者の放蝶した個体の再捕獲数に比べると
多めに見えます。
■白い部分が多い個体(白い部分の斑紋模様が派手に見える個体)
は増えたままで著変なし。例としては、SRS8395(黒っぽい)、
8422、8477、8560、8567、
8585(8700はよい対照)、8671、8693など。
いずれも♂です。
■鱗粉のある場所の全体が普通より黒っぽい個体の例は、
SRS8231、8286、8516(前項を兼ねる)、
8517、8525、8551、8562、8599、8614、
8711など。いずれも♂です。♀の場合は、正常のものとの区別が
やや難しいので、特に取り上げていないことも例示していない理由です。
このうち、8711は、黒いだけでなく、やや古くもあります。
これは8月の時間経過が長くなって来たことと関係するのでしょう。
黒っぽい個体は増えていますが、
このような個体は翅だけでなく、腹部の色彩も黒さが強いものです。
■今日は、一昨日と同じように、
昼間は高層での雲の展開を楽しむことができました。
しかし、夕方には、空に雲が広がり、
19時に下山するまでに空はすべて雲で覆われてしまいました。
グランデコの夏は雨天とのかけひきで気を使います。
アサギマダラは高原で優雅に夏を過ぎしているだけはなく、
日々ダイナミックな天候変化に対応しながら、
成熟への一時期を過ごし。
彼らの「青春の物語」をつむぎ出しているのです。
■明日、8月21日の天候は終日傘マークがついています。
午前30%、午後20%、夜40%の降雨確率。
温度も低そうですから、明日は成果の乏しい日になりそうです。
全国的に見ると、福島県を取り囲むエリアだけ雨が降る予想になっています。
-------------------------------------------------------------
■タテハチョウ科マダラチョウ亜科(以前はマダラチョウ科とすることもあった)アサギマダラ属アサギマダラ。学名Parantica sita 。英名Chestnut Tiger。
■本ブログの総合的な画像目次や、ブログ内容を地域毎・テーマ毎にまとめた画像目次を下記のHPから見ることができます。
●SRS研究所の公式HP
<参考HP>
●グランデコ・デコ平・裏磐梯でのアサギマダラ・自然旅行体験(SRS研究所)
●3Dアサギマダラの世界(SRS)
●SRSアサギマダラ生態図鑑
●2008年アサギマダラ移動調査記録(SRS)
■ランキングのために次の2つをそれぞれ一押ししていただければ幸いです:
(一日一押し)→

